強迫症・強迫性障害・OCD

原井によるOCDに対する行動療法のTV取材

百聞は一見にしかずと 良く言います。強迫症/障害(OCD)に対する行動療法もその一つです。嫌なことを敢えて行い、残った嫌な気持ちをそのまま取り消さずに家に持ち帰り、また翌日も同じ嫌なことをするというエクスポージャーと儀式妨害(ERP)は、文字だけで読むと「とても無理、自分にはできない」と思われる方が大半でしょう。そうでなければOCDと診断できないぐらいです。一方、実際に行っている場面を見た方はまた別の印象をもつようになります。「凄い」「ここまでできたら私も治るかも」。

2005年から今まで数回以上、テレビ取材を受けています。患者さんの同意を得て強迫行為を行っている場面、治療の場面を動画で見ることができます。残念ながら不潔恐怖の方ばかりになっています。テレビ局側としては、ただじっと止まって考えているだけの確認強迫は「絵にならない」そうです。たしかに普通の視聴者ならじっと止まっている動画には付き合えず、さっさとチャンネルを変えてしまうでしょう。

2005年2月 フジテレビ スーパーニュース

毎日500回、手を洗う強迫性障害の実態

国立菊池病院での入院による治療場面

2014年4月 Newsevery

なごやメンタルクリニックでの集中治療の場面

2014年5月 NewZERO

なごやメンタルクリニックでの集中治療の場面

2014年9月 日本テレビ「あのニュースで得する人損する人」

不潔恐怖の中年男性を取り上げている。高校時代の病気のスタートから就職先での症状悪化を役者が演じている。患者の自宅を訪問し、家での様子とERPによる治療の場面までを描いている。

2015年4月 フジテレビみんなのニュース

不潔恐怖の女性を取り上げ、3日間集団集中治療でどのように変わっていくかを描いている。

原井宏明・岡嶋美代

強迫性障害(OCD)に対する行動療法はもはや月並みな治療法である。一方,治療者はいまだに不足している。理由の一つに患者を診ながら行動療法を実際に経験する機会が不足していることがある。2004年にOCDの患者や家族によるサポートグループ「OCDの会」が始まり,会自身で研修会を開催するようになった。2008年度に第4回目を計画している。OCDと行動療法を自分自身の課題として経験した患者が体験談を語り,デモンストレーションを研修生の前で行う。

医学や臨床心理の世界では“患者から学ぶ”は月並みなスローガンである。一方,実際にどうなのかを行動療法学会で論じられたことは記憶する限りない。このシンポジウムでは行動療法の普及における課題と患者・家族の団体が果たす役割について検討する。

エクスポージャーのデモンストレーション

野口由香

第1,2回の研修会でデモを担当した。実際の不潔恐怖の患者さんに不潔物を触らせるエクスポージャーを壇上で行った。まず私がモデルを見せ,次に患者さんが触った。SUDを確認しながら不潔に触り続けていただいた。患者さんが恐れていることを私は言い続けた。「靴の汚れが付いた,トイレに入った靴の汚れがついた。もう汚れてしまった。汚れはとれない。」患者さんもつられて言い始めた。開始時はSUDは最高点に近く,目をギュッと閉じ肩に力を入れながら触っていたが,恐れていることを言いながら靴に触れているうちに肩の力がほどけ,表情も和らぎ,SUDは半減した。今度は手についた靴の汚れを私が先に手本をみせながら身体中に広げていった。汚れを最初に広げるときには躊躇する表情をされたが,汚れを広げるうちに緊張が溶け,最後には患者さん自らあちこち触るようになった。会場から自然に拍手が起こった。

講義や本からエクスポージャーは有用だと頭では知っていても,本当に大丈夫なのだろうか,もっと症状が悪くなるのではないか,と心配する人や倫理的に問題があると感じる人が大勢いる。知識伝授だけで治療を行えるようになる人もいないわけではないが,大半は治療を始めるまでには至らない。本物の患者がエクスポージャーで落ち着いていく様子を見せることが一番説得力がある。研修会後のアンケートでも講義よりも実際のデモが良かった,もっと見たいという声が大半だった。デモには患者さんの協力が欠かせない。勇気を出してくれた患者さんに感謝したい。

デモに出た患者の立場から

チョコ

私には不潔・感染恐怖と加害強迫観念があり,主な儀式は洗浄,確認,また警告する(危険を知らせる)もあった。デモでは,不潔だけでなく加害強迫観念へのエクスポージャーも行われた。人に病気を感染させる,嫌な思いをさせる,命の危険や一生に影響する害を与えるなどである。トイレの水に触って,その手で色々な人と握手し,最後にはデモで同席した他の不潔恐怖・手洗いの患者さんに汚れをつけた。私は,先生が汚れをつけてきた病気の感染が疑われる恐ろしいハンカチを持ち帰り,帰りにその汚れを広げた。

原井・岡嶋先生の治療はエクスポージャー対象のレベルが高いことで有名だ。そのことを知っていた私は,先生方の治療を恐れ,嫌がっていた。しかし,そんな私が行動療法研修会でデモ患者として治療を受け,その後も先生方の助けを頂きながら急激に回復した。私は先生方に治療して頂くまでの間,あるクリニックで薬物療法と認知行動療法の段階的暴露反応妨害法の治療を受けていた。かなりよくなっていたにも関わらず,ほとんど家にいてバイトを始められるようになりたいと思いながらも,実現できていなかった。研修会から3カ月後,私はバイトを探し始め,6ヶ月後,実際に働き始めた。

先生方の治療は今まで受けてきた治療とは全く違うものだった。強迫に対する理解が違うからだと思う。同じ強迫の患者さんに言うなら,私はこう言いたい。『行動療法はうまくやれば治る』,そして『よい治療者のところ,強迫のことをよくわかって下さっている先生の所に行って欲しい』と。

家族の強迫性障害と医療に望むこと

44歳 洗浄強迫の女性の夫

私は東京で中小企業を経営している。2002年頃から妻に強迫症状が出始め,翌年,OCDと診断された。 その後,不潔恐怖と洗浄強迫,巻き込みが悪化した。3年間,薬物療法と入院治療を受けたが,改善しなかった。自分もうつ状態になり入院するなど心身ともに疲れ果て,生活維持が困難になり絶望的になった。

ネットの情報でOCDには行動療法が効果があることを知ったが,主治医からは薬物療法以外の情報は得られなかった。やむなく,自分で病院探しをした。行動療法の専門医や専門の治療を行っている病院に次々とコンタクトして相談したが妻の治療を引き受けてくれる病院はなかった。とうとう九州まで範囲を広げて,探すこととなった。ネットで調べて,行動療法の治療をしていた菊池病院に問い合わせをした。ここで初めて原井医師から入院も含めて話を聞きましょうと言われた。OCDの会への参加も勧められた。OCDの会で,行動療法をうけて治療効果があった人たちを見て,重度のOCDも良くなることを実感し,やっと希望をもつことができた。一方,当時は家内自身に行動療法を受ける気持ちがなかった。家族がどう振る舞えば家内が治療を受ける気になるか,また私自身の精神面について病院で相談にのってもらった。

最終的に家内も行動療法を受け入れ,関東の大学病院で行動療法の入院治療をうけた。症状はようやく改善した。一方,この6年間は,行動療法は治療者が少なく,希望してもほとんど受けられないという実態を思い知らされた期間だった。これまで助けていただいた医師をはじめ,OCDの会には本当に感謝している。しかし,できうるなら患者・家族が自ら探さなくても治療をうけられるよう,医療者には情報提供や医療技術の普及努力を期待したい。

精神科開業医の立場から

瓦谷久志

島根県松江市で家内と二人で精神科クリニックを開いている。県立精神科病院に勤務していた時,重症のOCD患者と出会ったことから,OCDに惹かれるようになった。その後,肥前療養所で開かれたOCDの行動療法研修会に参加し,少しずつOCDが治療できるようになった。しかし,なんとなく自信がなかった。

そんな時,OCDの会のホームページを見て,第2,3回と続けて研修会に参加した。第2回では,菊池病院での治療場面の録画を提示しながらの解説,不潔恐怖や確認強迫の患者さんが実際の治療場面を再現するデモを見学した。第3回では今回のシンポジストのチョコさんともう一人の患者さんを研修中に治療するという,やや無謀な企画であった。加害恐怖のチョコさんには,イメージエクスポージャーのための最悪のストーリー作りをした。イメージだけでは不足だとわかると講師は実際の研修会場のトイレと研修会の聴衆を利用した現実暴露に移行していった。臨機応変でライブ感覚を重視したエクスポージャーはとても勉強になった。

私の治療の最大の転機は,平成19年秋,菊池病院での三日間集中治療の見学をしたことだ。数人の患者さんが,三日間十数時間かけて行う,病院のゴミ捨て場やトイレでのエクスポージャー,強迫性緩慢の治療,入浴訓練等,実にさまざまな治療を見学した。今,この場で,強い不安の中にいる患者さんが,実際に様々な不安対象にエクスポージャーしていく様子を目の当たりにした。ここまでするのかというほどの治療者と患者さんの気迫に圧倒された三日間だった。OCDに関して出版されている様々な本を参考に治療していたが,実際の治療に陪席することで,文字から得ることができない,呼吸のようなものを学ぶことができた。また,OCDを学ぶことによって,統合失調症との鑑別に悩む奇妙な観念を持つ患者を強迫・エクスポージャーという視点で見直すこともできるようになった。

エクスポージャーの実際と理論

~変わらない実践と変わる理論的背景~ 第34回日本行動療法学会 自主シンポジウム

「エクスポージャーの歴史と理論への期待」 原井宏明 なごやメンタルクリニック,国立菊池病院

「エクスポージャーの実際 ~儀式妨害と内部感覚エクスポージャー」 岡嶋美代 なごやメンタルクリニック

「恐怖反応の消去操作としてのエクスポージャー法 ~条件づけの基礎研究と行動療法を再びつなぐ」

中島定彦 関西学院大学文学部総合心理科学科

「強迫性障害とエクスポージャー ~「阻止の随伴性」から考える~」・指定討論

奥田健次 桜花学園大学人文学部

エクスポージャーの歴史と理論への期待

原井宏明

Borkovec T(2007)によれば,行動療法は#1 現時点でベストの理論と原則を出自にこだわらず用いる,#2 実証的・実験的証拠に基づくことのみ主張する,によって特徴づけられる。1959年にEysenck, HJが行動療法という名前を用いた時点では,学習理論が人間の行動,情動を説明するベストの理論であった。拮抗条件づけや消去,反応制止,逆制止を理論的説明に用いた系統的脱感作が考案された。系統的脱感作のDismantling研究によって生まれたのがエクスポージャーである。この概念は理論から生じたものではなく,行動療法の#2の特徴から生じたものだと言える。#1については,“認知革命”以降,さまざまな理論が出現したが,いずれもメンタリスティックな構成概念である。これらは後づけの理由づけには役だつが,行動の予測や制御には役立たない。

エクスポージャーは実際の効果についての十分な実績を持つ。実践のなかで工夫を重ね,効率的かつ永続的に不適切な行動・反応を減弱させることができるようになった。一方,この先,治療の進歩には実証的証拠に加えて,機能する理論が欲しい。

学習理論はこの50年間に大きな進歩があった。コンテキスト条件づけや刺激等価性,行動経済学,スケジュール誘発性行動,Autoshaping, Sign-Tracking, Behavior-system, Core affect, 価値条件づけ,Herrnsteinのマッチング法則,進化生物学など種々の発見や新しい概念がある。臨床家にとっていずれも魅力的である。たとえば,次のように言い表したくなる。

エクスポージャーを行うとき,条件刺激(conditioned stimulus, CS)を細かく把握することよりも無条件刺激(unconditioned stimulus, US)を把握することがより重要である。そうすればUSをエクスポージャーの中に組み込み,無条件反応としてのCore affectを引き出し,効率的に条件反応( conditioned response, CR)の消去ができる。そして,スケジュール操作とCRの消去が起こるまでの間にSign-Trackingを誘発することで,エクスポージャー行動をAutoshapingできる。

儀式妨害と内部感覚エクスポージャーの実際

岡嶋美代

原井・岡嶋はこれまで様々な疾患にエクスポージャー療法を用いた症例を本学会で発表してきた。エクスポージャーは儀式妨害とともに不安障害を治療する上で欠かせない。一般的なエクスポージャーは患者が日常生活で避けている状況(乗り物や不潔物など)に対して行われることが多い。現実には起こせない状況(火事や感染症,雷など)にはイメージを用いることもある。一方,我々がエクスポージャーを行うときには中核とみられる不快情動を引きだして,その情動に馴化を促すようにしている。

情動条件づけは多くの場合,身体内部感覚の変化を随伴している。たとえば排泄物や悪徳への嫌悪感(吐き気・過呼吸・背筋が凍る感覚など)や、対人場面での緊張(喉のつまり、発汗、紅潮など)に悩む患者は,これらの情動や感覚自体がエクスポージャーの対象である。

このようなエクスポージャーを集中的に行う行動療法カウンセリングを1~2週毎に1回1~数時間、または8時間を2日間連続して行うなどの形で,一人の患者について平均6回行っている。多くの患者はこれで寛解水準に達する。治療計画やエクスポージャーのアイデアは患者や状況に合わせたテーラーメイドである。

状況に対するエクスポージャーではパニック障害や強迫性障害,社会不安障害など疾患毎に行うことになる。一方,どの疾患も特定の情動に対する恐怖症であるすれば,治療方針は共通する。本シンポジウムで診断を越えたエクスポージャーの共通メカニズムについて議論していただけることを期待している。

恐怖反応の消去操作としてのエクスポージャー法

条件づけの基礎研究と行動療法を再びつなぐ

中島定彦

恐怖症を治療するため恐怖喚起刺激に繰り返しさらすエクスポージャーは、条件性情動反応の消去操作と等しい。条件づけに関する基礎研究は現在でも盛んに行われており、既存の理論の見直しや新しい理論の提唱、新現象の発見などが続いている。しかし、それらが行動療法の実践家に十分に伝わっているとは言いがたい。本発表では、レスポンデント条件づけ(古典的条件づけ)の消去に関する主要な理論と、消去後に見られるさまざまな反応復活現象を紹介し、エクスポージャーについて考える手がかりを提供したい。

消去の行動メカニズムについては、さまざまな理論が提唱されてきた。それらのうち主要なものは、(1)連合の喪失(学習の解除)、(2)般化の減衰、(3)CSの馴化、(4) US表象の劣化、(5)反応制止の形成、(6)制止性連合の形成、の6つであるが、これらのどれか1つで消去現象をすべて説明するのは困難であり、複数のメカニズムが関与していると思われる。

消去した反応はその後、復活することがある。Pavlov (1927)の報告した (a)時間経過による自発的回復(自然回復, spontaneous recovery)効果や、(b)外的刺激の呈示による脱制止(disinhibition)効果がよく知られているが、Bouton & Bolles (1979a, 1979b)が初めて体系的に研究した、(c)消去後に異なる環境(背景文脈, context)でCSを呈示することで反応が復活する復元(renewal)効果、(d)消去後にUSを単独で与えてからCSを呈示することで反応が復活する復帰(restatement)効果についても、この30年間に数多くの実験が行われ、理論的考察が深められてきた。

エクスポージャーを消去操作とみなせば、最も速く恐怖反応を消失させる手続きを動物や人間での実験結果や消去理論から推し量ることができるだろう。また、各種の反応復活効果に関する知見は、治療後の恐怖症の再発を防ぐヒントになるだろう。

強迫性障害とエクスポージャー

―「阻止の随伴性」から考える―

奥田健次

強迫性障害の症状を強めたり弱めたりするための要因を明らかにしたのは、行動療法によるアプローチからの貢献が大きい。しかしながら、強迫性障害の発症メカニズムについては依然として不明な点も多く、行動療法でよく用いられるエクスポージャーについても、実際にはどのような操作を行っているのか緻密な分析が行われているとはいえない(「習慣の随伴」や「自動化」などの説明は曖昧である)。

奥田(2007;未公刊)は、強迫性障害とエクスポージャーを『阻止の随伴性(杉山・島宗・佐藤・マロット・マロット, 1998)』の観点から分析した。阻止の随伴性の特徴は、人間が注意を集中し続けるのに役立つ側面がある(杉山ら, 1998)。

こうした側面は次のように換言できる。人間が注意を強迫的に集中し続けて、ある特定の行動を強迫的にし続ける行動随伴性がある。それが、「嫌子出現阻止による強化」と「好子消失阻止による強化」である。例を挙げると、直前条件「やがて泥棒に入られる」、行動「何度も戸締まりを確認する」、直後条件「泥棒に入られない」といった随伴性である。この例の場合、「やがて泥棒に入られること」が嫌子である。一方、エクスポージャーの手続きについては、それまで「阻止の随伴性」で強化されてきた行動に対して、「消失の随伴性」に移行させているのかもしれない。また、そこには馴化や消去の作用がある。これらはすべて、オペラント条件づけとレスポンデント条件づけの枠組みとして簡易に記述されるべきである。

検討すべき問題としては、阻止の随伴性における好子や嫌子であろう。「やがて起こりうる可能性」が直前条件として十分に機能している。これは、言語刺激(ルール支配行動を含む言語行動)かもしれないし、ある種のレスポンデント行動を引き起こす条件刺激であるかもしれない。討論にて一つの“考えるよすが(food for thought)”を提案できれば幸いである。